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残念な決断

73歳の売り手(A社長)は、M&A(譲渡)可能であるにもかかわらず、会社を清算するという残念な判断をしたときのお話しです。
A社長は、酒のディスカウントストアを2店舗経営されており、売上が29億円、家族で役員報酬を6,000万円ほど取って、経常利益が1億円以上というすばらしい経営をされていました。これほど利益が出るディスカウントストアは聞いたことがありません。
競争が厳しい業種ながら、近隣にライバルがいないため、老舗としていいお客さんを掴んでいたのです。
このA社長にお会いさせていただいた際、息子が病気のため後継者がいないということで、M&Aがスタートしました。
M&Aスタート時にまず企業評価をするのですが、A社長は、私に1つ重大な嘘をついていました。それは、帳簿上の約1億円の在庫以外に、「簿外でさらに1億円の在庫がある」と言ったのです。この話を聞いたときに同席していた顧問税理士は「え~社長、ほんまですか?」とあきれた表情でした。
この話を聞いた後、すぐに決算期が到来したのですが、正確な決算棚卸を依頼したところ、簿外在庫はほとんどなかったのです。
この簿外在庫について、なぜ嘘をついたのかを聞いたところ、笑いながらA社長はこう言いました。「M&Aは駆け引きが大事だから、ハッリかましとこうと思って・・・。」
この言葉を聞いて私はあきれたのですが、その時は軽い注意にとどめました。

この会社には純資産が4億円ほどあったので、当初の売却希望価格を7億円としました。当初A社長は、「売却希望金額は10億円」と言われたのですが、「それはいくらなんでも高過ぎですよ」という私の言葉を聞いていただき、7億円になりました。
買い手候補への打診がスタートして、あるスーパーへ打診したところ、買収に興味を示していただき、基本合意契約に向けてスタートしたいということになりました。ただ、この時、買い手社長から重大な指摘を受けてしまいました。実は、売り手の営業エリアにライバルの進出計画があったのです。しかもお店のオープンが今月とのことでした。この情報を買い手社長が知っていて、指摘されてしまいました。この瞬間、仲介者の私は、メンツ丸つぶれでした(>_<) 私は、買い手へ打診するときに売り手企業の内容が分かるような詳細な提案書を作っていますが、この案件でも提案書を作っていました。今回もA社長へのインタビューで「営業エリアへライバルの進出計画はありませんか?」という質問をしたところ、「それはありません」という答えでしたが、実はこれが嘘だったのです。 ライバルの進出計画を知らない訳がないので、「本当は知っていたのですね。」と追求したところ、「それを最近知って、お伝えしようと思っていたのですが・・・」と言われてしまいました。M&Aというのは、会社の将来を買うものなので、将来のマイナス要因は、将来のトラブルを避けるために早く言ってくださいと当初から何度も言っているにもかかわらず、また2度目の重要な嘘をつかれてしまったのです。これでは、お互いの信頼関係はなくなってしまいます。 M&Aは、スタート時に少し着手金をいただきますが、成約しなければ赤字になるビジネスなので、仲介者と売り手社長は、運命共同体であり信頼関係なくして、ハッピーM&Aはあり得ないのです。 私は、A社長にM&Aの厳しさを理解し反省もしていただきたいので、次のように言いました。「もし、重要な事実を隠したまま、高い金額で会社を売却すると詐欺と同じです。私は、今までA社長と御社の従業員のために動いてきたのですが、正直、私の誠意が伝わらず残念です。M&Aで嘘をつくと将来大きなトラブルになり裁判沙汰にもなりかねません。結局、損をして嫌な思いをするのはA社長ですよ。今回の件は、水に流しますが今後二度とこういうことがないようにしてください。」 ライバル企業の進出計画について嘘があったので、買い手からは、当初「いただいた決算数字も素直に信用できないなあ」と言われてしまいましたが、買収希望金額を1億円ダウンの6億円として再スタートすることになったこともあり、よく検討した結果、買収を前向きに検討してくれることになりました。 そこで、私は、両社長の希望通り早期の最終契約締結に向けて、早速、基本合意契約を作成して、A社長に説明しました。この基本合意契約には、次のA社長の希望が織り込まれていました。 ①店舗の土地(個人所有)の賃貸については、15年の定期賃貸借契約にする ②早期(1ヶ月)で引き継ぎを終え、リタイヤする するとA社長は、「M&Aの契約について、だいたいイメージができました。1週間ほどよく考えさせていただき、この内容でいいかどうか連絡させていただきます」ということになりました。 そして翌週、電話が掛かってきました。「よく考えさせていただいたのですが、M&Aというのは、僕の性に合わないので、止めさせていただきたい。会社を清算することにしました」 それを聞いた私は、「え~なぜですか?会社を清算すると従業員や取引先に迷惑をかけますし、M&Aよりよっぽどいんどい思いをすると思います。また、手取りも半分ですよ」と答えました。 A社長の判断が理解不能だったので、その後3度も当初からM&Aに協力的だった売り手の顧問税理士と一緒にA社長の自宅まで行き、M&Aのメリットや買い手の意気込み、清算のデメリット(M&Aより遙かに労力がかかるし、従業員が職を失う)等を説明させていただいたのですが、「会社を清算した方がすっきりする」ということで、残念ながら、聞いていただけませんでした。 ひょっとすると私が基本合意契約書案に書いた売り手責任に該当する重要なことを隠していたために、後でトラブルになることを考えて清算を選択されたのかもしれません。 世の中には、色々なタイプの社長がいて、時に色々な判断を下します。中には、名誉やプライドのために明らかに間違った判断を下す社長や家族やご自身の病気ために正常な判断ができない社長もいます。 このA社長は、後日うちの会社に謝りに来てくれましたが、このA社長を説得し、ハッピーM&Aができなかったことは、私の反省材料でもあり、もっとMA力を付けないといけないと思いました。 いいアドバイザーになるには、お客さんの真意を知るためにもっと耳力(聞き上手であるということ)を付ける必要があると思いました。この「耳力」という言葉を流行らせようと密かに考えています(*^_^*)


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